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名古屋地方裁判所 昭和45年(わ)925号 判決

主文

被告人を罰金一五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金、一、〇〇〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、本多清組名古屋支部長であるが、

第一、昭和四五年六月二一日、名古屋市千種区千種本町二丁目二五番地所在の同支部事務所を連絡場所にして、松田貞男ら数名を相手客として、当日行われるプロ野球セントラルリーグの各試合についてチームの組合わせに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に一口一、〇〇〇円の割合で一口以上の金銭を賭ける申込を、直接前記連絡場所への電話により受付け、あるいは浅井茂、大橋隆利、高井喬一、浅井康正に受付けさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行い、

第二、同年四月二三日、前記本多清組名古屋支部を連絡場所にして、今西敬ら数名を相手客として、当日行われるセントラル、パシフイツク両リーグの各試合について、チームの組合せに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に一口一、〇〇〇円の割合で一口以上の金銭を賭ける申込を、直接前記連絡場所への電話により受付け、あるいは浅井茂、大橋隆利、高井喬一、浅井康正に受付けさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行い、

第三、同年同月二六日、前記本多清組名古屋支部を連絡場所にして、金森こと金順平ら十数名を相手客として、当日行われるプロ野球セントラル、パシフイツク両リーグの各試合について、チームの組合わせに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に一口一、〇〇〇円の割合で一口以上の金銭を賭ける申込を、直接前記連絡場所への電話により受付、あるいは浅井茂、高井喬一、浅井康正に受付けさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行い、

第四、同年同月二四日、前記本多清組名古屋支部を連絡場所にして、金森こと金順平ら十数名を相手客として、当日行われるプロ野球セントラル、パシフイツク両リーグの各試合について、チームの組合わせに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に一口一、〇〇〇円の割合で一口以上の金銭を賭ける申込を、直接前記連絡場所への電話により受付け、あるいは浅井茂、大橋隆利、高井喬一、浅井康正に受付けさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行つ

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(当裁判所が賭博開張図利罪を認定しない理由)

検察官は、本件各罪につき、昭和四五年九月二九日付起訴状記載の公訴事実、同年一〇月二七日付起訴状第一記載の各公訴事実のとおり、賭博開張図利罪を主張するが、当裁判所はこの訴因事実を認定しないので、以下にその理由を説明する。

賭博開張図利罪の構成要件である「賭博場を開張する」とは、「賭博を行う一定の場所を自ら主宰して開設し賭博者を誘い集める」ことと解するのが相当であるが、本件のいわゆる「野球賭博」と称する賭博行為は、もつぱら相手客の各現在地に赴いて賭博の申込を受付けたり、相手客の各現在地より電話による申込を受付けるものであつて、事務処理上の便宜から一定の連絡場所(本件の場合本多清組名古屋支部がまさにこれにあたる)を設定してあつても、これはいわゆる賭博者の来集を目的とする場所ではないから、刑法第一八六条第二項の「賭博場」にあたらないものであることは明白であり、従つて、その犯行の態様に照らし、本件のいわゆる「野球賭博」は、賭博者の来集を目的として賭博を行う場所を開設したものということはできない。

また、賭博開張図利罪が、博徒結合図利罪とならんで、他の賭博の罪と区別されて特に重い処罰の対象とされるのは、自ら財物を失う危険を負担することなしにもつぱら他人の行う賭博を開催して利益を図る点において、より強度の違法性が認められるからである。しかるに、本件の「野球賭博」と称する賭博は、各試合のハンデイを調整して双方のチームに対する賭金額がなるべく合致するように計画は立てるものの、丁半賭博などとは異なり、一方のチームに対する賭金額に制限されることなしに他方のチームに対する賭けの申込に応ずるものであつて、たとえ双方のチームに対する各賭金額が合致しなくとも無条件に賭博は成立し約束に従つた賭金が支払われるものであり、従つて双方チームに対する賭金額の不一致による危険負担は、結局野球賭博の主宰者自らが一手に引受けているものであり、この自ら負担しなければならない危険をできるだけ少くするためにいわば営業政策上ハンデイの調整を行つているにすぎないものと認むべきであるから、むしろ、自らが相手客の申込む賭博の相手になつて賭博行為を行つているものと解するのが相当であり、この点においても、賭博開張図利罪にあたるものとは認めえない。

いわゆる「野球賭博」を取締る必要という刑事政策的理由から刑法第一八六条第二項の刑罰法規にその文理を超えた類推解釈をほどこすことは罪刑法定主義の見地から許されないところである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも刑法第一八五条本文罰金等臨時措置法第三条第一項第一号にあたるが所定刑中各罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項に従い各罪の罰金の合算範囲内で被告人を罰金一五万円に処し、なお罰金不完納の場合の労役場留置については刑法第一八条を適用して金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することにする。

よつて主文のとおり判決する。

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